答に出た「蠅男」

「ええ、なんですって。この犯行にどの位時間が懸るというのですか。うむ、それは頗《すこぶ》る優秀なる質問ですね。――」 帆村は腕を組んで、犯行の時間を推定するより前に、なぜ糸子が、このような突然の質問を出したかについて訝《いぶか》った。

   答に出た「蠅男」

「犯行に費した時間はというと、そうですね、まず少くとも二分は懸るでしょうね。手際が悪いとなると、五分も十分も懸るでしょう」「ああそうでっか。二分より早うはやれまへんか」 と糸子は帆村に念を押した。「二分より早くやるには余程人数が揃っているとか、或いはまた道具が揃っていないと駄目ですね」「ああそうでっか。――二分、ああ二分はかかりまっかなア」 糸子はなぜか二分という時間にこだわっていた。 帆村は糸子の問に応えているうちに、妙な事実に気がついた。それは犯人はどんな台を使って総一郎をこんな高いところに吊りあげたかという疑問だった。 なぜならこの部屋は天井がたいへん高く、普通の家の書斎に比べると三、四尺は高かったろう。そこから吊り下った屍体の爪先は、床から三尺ぐらいのところにあるが、それを吊り下げる綱の一番高いところは床上から二間ばかり上にあった。犯人の手はどうしてそんな高いところへ届いたのだろう。 いま検事や署長などが、屍体の傍に置いている台は、その部屋にあった二尺あまりの丸い卓子の上に、勝手に使っていた二尺の踏台を重ねあわせたものだ。犯人が総一郎を殺したときには、この踏台はこの部屋になかった。では彼はどうして十二尺あまりもあるところへ綱を通して結び目を作ったのだろう。

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