天井裏の怪音?

「十二時すぎたら、此処に用意してあるベッドにもぐりこんで朝方まで睡りますわ」「さよか。そんならお大事に、なにかあったら、すぐあの信号の紐を引張るのだっせ」「わかってます。――そんならもう扉を叩かんようにお頼み申しまっせ。蠅男が来たのか思うて、吃驚《びっくり》しますがな」といって総一郎は言葉を切ったが、また慌てて声をついで、「――それからあのウ、池谷与之助《いけたによのすけ》は帰って来ましたやろか。そこにいまへんか」「ああ池谷はんだっか。さあ――」と署長は後をふりかえって、警官の返事を求めたあとで、「どこやら行ってしもうたそうや。うちに居らしまへんぜ」「ああそうでっか。おおきに。――そんならこれで喋るのんはお仕舞いにしまっせ」 帆村は、さっきからしきりと両人の扉ごしの会話に耳を傾けていたが、このとき首を左右に振って、「――喋るのはお仕舞いにしまっせ、か。これが永遠の喋り仕舞いとなるという意味かしら。ホイこれは良くない卦《け》だて」 といって、大きな唇をグッとへ[#「へ」に傍点]の字に曲げた。

   天井裏の怪音?

「あれはなんだネ、池谷与之助てえのは」 と、検事が署長にたずねた。「その池谷与之助ですがな。さっき怪しい奴が居るいうてお知らせしましたのんは。夜になって、この邸にやってきよりましたが、主人の室へズカズカ入ったり、令嬢糸子さんを隅へ引張って耳のところで囁《ささや》いたり、そうかと思うと、会社の傭人を集めてコソコソと話をしているちゅう挙動不審の男だすがな」「フーム、何者だネ、彼は」

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