互いに顔を見合わせた

 若い男女は、愕きの目を見張って、互いに顔を見合わせた。「きょうの列車は、燕《つばめ》号ですネ。だいぶん空《す》いていましたネ。お嬢さんは、よく睡れましたか」 これを聞いていたカオルは、真青になった。「ああ、もうよして下さい。気持が悪くなりますわ。探偵なんて、なんて厭《いや》な商売でしょう。まるであたしたち、監視されていたようですわ」 帆村は、笑いかけた顔を、急に生真面目な顔に訂正しながら、「やあ、お気にさわったらお許し下さい。もうお天気の話はよします」 といって、指先に挟《はさ》んだ莨《たばこ》をマジマジと見るのであった。 そこへ電話口へ出ていた村松検事が帰ってきた。あとに警察の保姆《ほぼ》がついている。「おう、帆村君、正木署長の電話によると、いま玉屋総一郎の邸に、怪しき男が現われて邸内をウロウロしているそうだよ。いよいよチャンバラが始まるかもしれないということだ。これから一緒に行ってみようじゃないか」「ほう、また怪しき男ですか。どうも怪しき男が多すぎますね」 カオルの連れの上原山治が、キラリと眼を動かした。「多いぶんには構わない。足りないよりはいいだろう。――それからお嬢さんに上原君でしたかな。二階に落着いた部屋があるから、そこでゆっくり休んで下さい。この婦人が世話をしますから、どうぞ」 検事が頤《あご》をしゃくると、保姆は人慣れた様子で二人に挨拶し、二階へ案内する旨《むね》を申述べた。――二人は観念したものと見え、また互いの眼を見合わせたまま、保姆の後について、部屋を出ていった。「さあ、行こう。――が、君の服装は困ったネ」と検事が顔をしかめた。

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