監視の警官が一人ついたまま

 署長があたふたと階下《した》へ下りていく後を、村松検事は追いかけるようにして、大広間の方へついていった。焼屍体のあった大広間は、監視の警官が一人ついたまま、気味のわるいほどガランとしていた。 警官の挙手の礼をうけて、室内に入った署長は、そのとき室内に、異様の風体の人間が、火の消えた暖炉《ストーブ》の傍にすりよって、後向きでなにかしているのを発見して、呀《あ》ッと愕いた。全く異様な風体の人間だった。和服を着て素足の男なんだが、上には警官のオーバーを羽織り、頸のところには手拭を捲きつけているのだった。頭髪は蓬《よもぎ》のようにぼうぼうだ。「コラッ誰やッ」署長は背後から飛びつきざま、その男の肩をギュッと掴んだ。「うわッ、アイテテテ……」 異様な風体の男は、顔をしかめて、三尺も上に飛びあがったように思われた。「何者や、貴様は――」 と、獣のように大きな悲鳴をあげた怪人に、却《かえ》って愕かされた署長は、興奮して居丈高《いたけだか》に呶鳴った。「いや正木署長、その男なら分っているよ」いつの間に入ってきたか、村松検事がおかしそうに署長を制した。「それは私の知合いで帆村《ほむら》という探偵だ」「ああ帆村さん。この怪《け》ったいな人物が――」「うむ怪しむのも無理はない。彼は病院から脱走するのが得意な男でネ」 帆村は肩が痛むので左腕を釣っていた。大きな痛みがやっと鎮まるのを待って、怺《こら》えかねたように口を利いた。「――まあ怒るのは後にして頂いて、これをごらんなさい、重大な発見だ」 そういってさし伸べた彼の右手には、同じ色と形とを持った二枚の黄色い封筒があった。

— posted by id at 05:08 pm  

T: Y: ALL: Online:
Created in 0.1875 sec.

http://harlowvts.org.uk/