二つの殺人|宣告書《せんこくしょ》

   二つの殺人|宣告書《せんこくしょ》

「あッ」とカオルは愕きの声をあげた。「するともしや、父が殺人をして逃亡したとでも仰有《おっしゃ》るのですか」「まだそうは云いきっていません。――一体お父さんは、この家でどんな仕事をしていたか御存じですか」「わたくしもよくは存じません。ただ手紙のなかには、(自分の研究もやっと一段落つきそうだ)という簡単な文句がありました」「研究というと、どういう風な研究ですか」「さあ、それは存じませんわ」「この家を調べてみると、医書だの、手術の道具などが多いのですよ」「ああそれで皆さんは父のことをドクトルと仰有るのですね」 女はすこし誇らしげに、わずかに笑った。 そのとき正木署長が、検事の傍へすりよった。「ええ、……緊急の事件で、ちょっとお耳に入れて置きたいことがありますんですが、いま先方から電話がありましたんで……」「なんだい、それは――」 廊下へ出ると署長は低声《こごえ》で、富豪玉屋総一郎氏が今夜「蠅男」に生命を狙われていることを報告し、只今それについて玉屋から、どうも警察の護衛が親切でないから、司法大臣に上申するといってきた顛末《てんまつ》を伝えた。 村松検事は署長に、その脅迫状を持っているなら見せるように云った。 署長は、お安い御用といいながら、ポケットを探ったが、どうしたものか先刻預って確かにポケットに入れたはずの封筒が、何処へ落としたか見当らないのであった。「どうしたんやろなア、確かにポケットに入れとったのじゃが――ひょっとすると階下《した》の大広間へ忘れてきたのかしらん。検事さん、ちょっとみてきます」

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